Labo_535
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新型コロナウイルス感染症発生当初は、感染者の20人に1人が亡くなる、非常に重症度の高い感染症でした。「新型コロナ出現から3年が過ぎ、その間に、大きく変化したと思います。非常に高い致死率でしたが、今では0・2%までになっています。 この3年間でいろいろなことがわかってきました。まず、感染経路についてですが、大きく分けて3つあります。1つは接触感染ですが、感染対策の基本として、手指衛生の重要性が広く認識されたのではないかと思います。一方で、テーブルなどに付着したウイルスから感染することはほとんどないということがわかりました。2つ目は飛沫感染。コロナ禍では咳やくしゃみをしていない人もマスクをつけてくださいという考え方で、これは、症状が出る前の人も感染性があるため、感染対策が必要ということなのです。さらに、新型コロナは唾液の中にウイルスが多いという特徴があるため、非感染者も会話などでウイルスを浴び、感染することがあるということです。3つ目はエアロゾル感染です。エアロゾル感染を防ぐためには、部屋の換気をよくすることで、これまでの感染対策ではあまり重視されてきませんでしたが、コロナ禍においては、重要性が強く認識されました。いずれにしても、コロナ禍で飛沫感染の考え方が大きく変わり、接触感染についても、環境からの感染はほとんど起こっていないことがわかってきたというのが、この3年間の変化ではないでしょうか」めてから、その年の半ばには、ワクチンによって免疫をつけた人が9割を超えたそうです。「では、日本ではどうなのかという調査が行われ、今年の2月の段階で、4割くらいの人がコロナに感染していて、そのほとんどがオミクロン株でした。ただ年齢によって大きく異なり、10代、20代、30代の半分以上の人が、実際に感染していると考えられる一方で、60代では4人に1人くらいしか感染していません。もっと高い年齢層については、調査が行われていないのですが、おそらくもっと低いだろうと考えられます。免疫が十分ではない人が多いですから、一般社会と同等の感染対策というのは難しいと思います。まだまだ一般社会と病院とでは、感染対策を分けて考える必要があります。会的にはコロナは終わったととらえている風潮もあります。ただ、コロナが完全に終息したわけではありません。5類になって、ワクチン、検査、治療薬等の公費負担がなくなっても、重症化リスクの高い方はワクチン接種を行い、早期診断、早期治療をすることが大事です。流行の規模をなるべく小さくすることが、イギリスは2021年にワクチン接種を始病院内などでは、オミクロン株に対しての現在、新型コロナは5類感染症となり、社これからの目指すべきことだと思います」新型コロナの流行初期の検査数は、全体で一日1万件ほどでしたが、流行のいちばんのピーク時には、25万件の検査が行われました。「コロナ禍の3年間を振り返ってみますと、流行初期には検査数が問題になりました。これは検査の領域だけでなく、感染症専門医についてもそうでしたが、人材育成が大きなポイントになってくるかと思います。そのほか、検査の適正化、精度管理についても、日本全体で管理をしていく必要があるだろうと思っています。次のパンデミックにおいても、必ず検査が鍵を握ります。さらに進んだ協力体制を構築できればと考えています。次のパンデミックに備えて、私の中での大きな課題は3つあります。1つは「医療体制、保健所の整備」。人材育成やデータ管理です。2つ目は「専門家の育成と研究」。治療薬やワクチン開発の研究のための予算確保です。3つ目は「科学リテラシー」。デマなどに振り回されることなく科学を正しく解釈することです。コロナが落ち着いてきている今こそ、以上のような課題を整理して、次のパンデミックに向けて体制を整えていくことが重要だと思っています」これまでのコロナを振り返りながら、そして今こそ「これから」に備える――、非常に貴重な講演となりました。3年間で大きく変化した新型コロナ現在の感染状況とこれからの目指すべきことコロナのこれまでと今後の課題東大寺の大仏がつくられたときの絵画。天然痘終息の願いが込められていたコロナに感染している率を示したグラフ会場では多くの人が耳を傾けた13■ LABO – 2023.08              

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