ンの減少により骨盤底筋群がゆるむことと、加齢などにより膀胱や尿道括約筋の機能が低下することです。切迫性尿失禁は過活動膀胱の症状の1つで、尿意切迫感が起きたときに尿がもれてしまうタイプです。男性では前立腺肥大症、女性では骨盤臓器脱などが原因です。過活動膀胱の有病率は男女でほとんど差がありませんが、切迫性尿失禁が女性に多いのは、女性の尿道が男性に比べて短いからと考えられています。頻尿や尿もれを治療するためには、まずふだんの排尿の状態を把握しなければなりません。そのために重要なのが、「排尿日誌」と「質問票」です。排尿時刻や尿量などを記録しておくと、診断や治療方針決定のための手がかりとなります(5ページ、図表4)。症状の質問票である「過活動膀胱症状スコア(OABSS)」を用います。質問票では、この1週間の排尿の状態についての質問項目が設定されています。たとえば、「朝起きた時から寝る時までの排尿の回数」「夜間の排尿の回数」「がまんできないくらい排尿したくなった頻度」「急に排尿したくなり、がまんできずに尿がもれた頻度」などです。そのほか、10個の症状に対する回数や頻度をたずねる「主要下部尿路症状スコア(CLSS)」を用いる場合もあります。男性には、前立腺肥大症の可能性を7項目の質問に回答することでチェックできる「国際前立腺症状スコア(IPPS)」という質問票もあります。インターネットで入手することもできるので、セルフチェックしてみるといいでしょう。質問項目は、この1カ月間の尿に関する症状のチェックです。たとえば、「残尿感」「尿の勢い」「尿をがまんするのがむずかしいことがあったか」「夜間にトイレに行った回数」などです。医療機関によっては、このIPPSに加えて、排尿の状態がQOL(生活の質)に及ぼす影響の程度を確認する質問票を用いることもあります。問診では、過去の病歴・治療歴、服用している薬、女性は出産歴などさまざまなことを聞きます。多くの場合、この問診と質問票、尿検査だけでおおよその診断がつきます。問診、質問票以外の検査については図表5を参照してください。頻尿・尿もれに悩んでいても、医療機関を受診する人は多くありません。しかし、頻尿・尿もれはQOLを低下させるばかりでなく、膀胱がんや前立腺がんなどが潜んでいる場合があるので、早めに泌尿器科を受診することが大切です。排尿日誌や質問票が診断の重要な手がかりに▼排尿日誌▼質問票▼問診62023.09 – LABO ■図表5 頻尿・尿もれの検査 泌尿器科では、問診、質問票に続き、次のような検査を行い診断します。多くの場合、初診では体への負担の少ない検査が行われます。■尿検査基本の検査。尿からは多くの情報を得られる。血尿が出ていれば、尿路感染症や結石、泌尿器科のがん、タンパクが出ていれば炎症や感染症および腎機能の低下、糖が出ていれば糖尿病、細菌が見つかり、さらに白血球が増加していれば膀胱炎、尿道炎、尿路感染症などが疑われる。■PSA検査(男性)血液検査で調べることができる。PSAとは前立腺の上皮細胞から分泌されるタンパクで、「前立腺特異抗原」と呼ばれるもの。多くは精液中に分泌されるが、ごく微量が血液中に取り込まれる。前立腺がんがあると数値が高くなるため、前立腺がんの腫瘍マーカーとして用いられている。PSAは前立腺が肥大したり、炎症を起こしたりしたときにも数値が高くなる。基準値は年齢によって異なるが、前立腺の異常が疑われる目安は4.0ng/mL。■腹部超音波検査体への負担が少なく、簡便な検査。膀胱の形態、膀胱腫瘍、膀胱結石の有無などの情報が得られる。女性の場合は経膣的超音波検査を行うこともある。腹部超音波検査ではわかりにくい尿道や尿道括約筋の観察ができる。■残尿測定排尿直後に、超音波検査で残尿量を測定する。■内診(女性)尿道口や膣口などを確認し、炎症や骨盤臓器脱、骨盤底筋群のゆるみなどを調べる。■直腸診(男性)肛門から指を入れて、直腸の壁越しに前立腺に触れ、大きさや形、硬さなどを確認する。検査の際にはゼリー状の潤滑油を使用するため、痛みはほとんどない。■せきテスト(ストレステスト)腹圧性尿失禁かどうかを調べる検査。膀胱に尿が十分にたまった状態で内診台に横になり、大きく1回せきをする。もれた尿の量などから重症度を判定する。■パッドテスト尿パッドを当てて決められた動作を行い、テスト後のパッドの重さからテスト前のパッドの重さを差し引くと、もれた尿量がわかる。■尿流測定検査専用の便器に排尿すると機器が自動的に尿流カーブを描く。尿量、所要時間、尿の勢い(1秒あたりどのくらいの尿が排出されるか)がわかる。体への負担が少なく、簡便に排尿状態を調べることができる検査。■膀胱内圧測定膀胱の知覚と運動機能を調べる検査。排尿後に尿道から内圧測定器つきのカテーテルを挿入し、生理食塩水を注入。尿意を感じた時点の水の量を記録。さらに注入を続け、がまんできないほどの尿意を感じた時点での水の量を記録する。■チェーン膀胱造影検査膀胱にカテーテルを挿入して造影剤を注入し、X線で膀胱内を撮影する。男性の場合は前立腺の摘出手術などのあとに行う。女性の場合は腹圧性尿失禁の疑いがあるとき、膀胱や尿道が正しい位置にあるかどうかをみるために行う 。尿道はX線では写らないため、細いチェーンをカテーテルに挿入する。チェーンの角度によって膀胱や尿道の位置がわかる。
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