Labo_541
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▼内分泌系▼免疫系▼心血管系▼中枢神経系りました。ME/CFSは古くからあり、いまなお日常生活に支障をきたす重い病気であるにもかかわらず、認知度が低いことが課題となっています。国内の患者数は人口の0・1%と推定され、その約3割が寝たきりになっていることが厚生労働省の調査によりわかっています。この病気を抱える患者さんの中には、学校に通えない子どももいます。この病気の究明には長い月日が費やされ、さまざまな学説が報告されてきました。近年では、脳画像研究によって「脳内炎症」が認められるなどの新しい治験が報告されています。以下は、これまでにわかっている主な研究報告です。ME/CFSの患者さんでは、健常者に比べてコルチゾール(一時的なストレスから身を守るために分泌されるホルモン)の値が低いなど、視床下部ー下垂体ー副腎皮質軸の異常が存在することが知られています。ただし、これらの値は両者の間で差がないという報告もあり、結論には至っていません。ME/CFSではしばしば抑うつ状態を合併しますが、うつ病の患者さんは高コルチゾール血症をきたすことが多いため、両者の内分泌系の異常は対照的であることがわかっています。多くのME/CFSの患者さんはウイルス感染後、またはインフルエンザ様の症状に続いて突然発症します。これまでの多くの研究によりME/CFSには何らかの炎症が関与していることは示されるものの、ME/CFSの患者さんの病態と重症度の両方を反映するサイトカイン(細胞間の情報伝達作用をもつタンパク質)はまだ特定できていません。一方、ME/CFSの患者さんにはアレルギー歴のある人が多く、何らかの免疫異常が関与していることは間違いないとされています。近年の研究では、神経伝達にかかわる抗ムスカリン1型アセチルコリン受容体抗体が脱力感や思考力の低下と関連していることがわかりました。心臓エコー検査の所見では、ME/CFS重症の患者さんは健常者より心臓から全身に送り出される血液の量が低下しており、疲労感やインフルエンザ様の症状の強さと相関していることがわかっています。脳の前頭前野の機能低下が疲労に関連することがわかっています。ME/CFSの患者さんの前頭前野の容積は健常者より小さくなっており、病態には後頭葉最近注目されている要因は脳の神経炎症2024.02 – LABO ■▶実用的な診断法になる  可能性に期待  脳の神経炎症を調べる検査は、いまはまだごく限られたPET検査施設でしか実施できません。しかし、今後、日本中の多くのPET検査施設で神経炎症の要因と考えられるミクログリアの活性化を調べることができれば、神経炎症の有無を客観的に評価できるようになり、ミクログリアの活性化と病態との関連を明らかにすることが可能になります。 将来的には、ME/CFSが疑われる人に対して血液バイオマーカーを用いてスクリーニング検査を実施し、異常がみられた人に対してPET-CT検査で神経炎症の有無を調べ、確定診断を行うことが可能になると期待されています。  4から起き上がれない(労作後の消耗)□過眠や不眠、熟睡感がない、など(睡眠障害)□記憶障害、集中力の低下、脳にもやがかかったような状態(認知機能障害)□長く立っていることができない(起立不耐)□音・光・においの刺激や多種多様な化学物質に耐えられない(刺激過敏症、化学物質過敏症)□頭痛、関節痛、筋肉痛のために生活の質が著しく低下 する□原因不明の発熱・下痢、体温調節が困難になる図表2 脳の神経炎症を見つけたPET-CT検査▶日本の研究グループが発見 ME/CFSの患者さんでは、頭部CTやMRI検査をしても異常がみられないため、以前は脳神経系に炎症がみられるかどうかについては否定的な意見が多く存在していました。 しかし、2014年、理化学研究所と大阪市立大学の研究グループから、PET-CT検査を用いた臨床研究で、ME/CFSの患者さんでは脳内炎症が広い領域で起きていること、脳内の炎症部位は認知機能低下や抑うつなどの症状と相関していることが報告されたのです。 PETとは、放射性同位元素(ラジオアイソトープ=RI)を静脈から注射し、放出される放射線をとらえて画像に映し出すRI検査に、コンピュータ画像処理装置を組み合わせた検査です。PETとCTを組み合わせ、両方の長所を融合させた検査装置がPET-CTです。図表1 ME/CFSの症状(例) 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は、半年以上にわたって強い疲労感が続き、全身の脱力などによって、日常生活を送るのが困難になる原因不明の病気です。以下のような、さまざまな症状が現れます。□簡単な家事などをしただけで、翌日から数日間ベッド

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