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や海馬などの容積低下もかかわっていると報告されています。さらに最近では、ME/CFSの患者さんの脳内の広い範囲に「ミクログリア(免疫細胞の一種)の活性化による神経炎症」が存在し、この神経炎症の程度と認知機能の低下、抑うつ、痛みの程度が相関していることが明らかになっています(4ページ、図表2)。ME/CFSは単なる脳の機能的な病態にとどまらず、器質的な病態である可能性が高いというこの発見は世界から注目され、現在さらなる研究が進められています。これらのほか、ME/CFSの患者さんでは副交感神経の機能が低下していることや、さまざまな代謝系の障害が存在する可能性が示されています。また、血中酸化ストレス度を表す指標の値が高く、抗酸化力が低いことや、腸内細菌叢の多様性の減少(炎症性の種の増加)なども認められています。さらに、ME/CFSはさまざまなストレスが引き金となって発症することが多く、発症前に大きなストレスや、ネガティブライフイベント(身近な人の死、離婚、けがや病気、失業など)が多く認められたという報告もあります。ME/CFSの診断にあたっては、米現在、日本で行われているME/CFSの診断方法とは?5■ LABO – 2024.02出典:厚生労働省科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業(神経・筋疾患分野)「慢性疲労症候群の病因病態の解明と画期的診断・治療法の開発」研究班による新しい臨床診断基準(2017年)※一部改変【別表1】ME/CFS診断に必要な最低限の臨床検査 ・尿検査(試験紙法)・便潜血反応・血液一般検査(WBC、Hb、Ht、RBC、血小板、末梢血液像)・CPR、赤沈・血液生化学(TP、蛋白分画、TC、TG、AST、ALT、LD、 γ-GT、BUN、Cr、尿酸、CK、血清電解質、血糖)・甲状腺検査(TSH)、リウマトイド因子、抗核抗体・心電図・胸部単純X線検査6カ月以上続く(または再発をくり返す)以下の所見を認める(医師が判断し、診断に用いた評価期間の50%以上で認めること)①強い倦怠感をともなう日常活動能力の低下 (体質的なものではなく、休息によっても改善しないもの)②活動後の強い疲労・倦怠感 (活動とは身体活動だけでなく、精神的な活動やさまざまなストレスを含む)③睡眠障害、熟睡感のない睡眠④下記の(ア)または(イ)(ア)認知機能の障害(イ)起立性調節障害別表1に記載されている最低限の検査を実施し、別表2に記載された疾病を鑑別する別表3に記載された疾病・病態は共存として認めるPS(パフォーマンス・ステイタス:日常生活の制限の程度)によるQOL評価を採用(医師が判断)※別表4(概要)を参照。【別表2】鑑別すべき主な疾患・病態①臓器不全:肺気腫、肝硬変、心不全、慢性腎不全など②慢性感染症:エイズ、B型肝炎、C型肝炎など③膠原病・リウマチ性、および慢性炎症性疾患:全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、シェーグレン症候群、炎症性腸疾患など【別表3】共存を認める疾患・病態線維筋痛症、過敏性腸症候群、顎関節症、化学物質過敏症、間質性膀胱炎、機能性胃腸症、月経前症候群、片頭痛、気分障害(双極性障害とうつ病を除く)、起立性調節障害、脳脊髄液減少症、レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)など【別表4】PSによる疲労・倦怠感の程度疲労・倦怠感の程度を0~9の10段階に分類。たとえば、「0」は「倦怠感なく平常の社会生活ができ、制限を受けることなく行動できる」。「6」は「調子の良い日には軽労働が可能であるが、週の半分以上は自宅で休んでいる」。「9」は「身の回りのこともできず、つねに介助が必要で、終日床についている状態」。どの程度に該当するかは、医師が判断します。④神経系疾患:多発性硬化症、神経筋疾患、てんかんなど⑤系統的治療を必要とする疾患:臓器・骨髄移植、がん化学療法、放射線治療など⑥内分泌・代謝疾患:糖尿病、甲状腺疾患、副腎不全など⑦原発性睡眠障害:睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシーなど⑧精神疾患:双極性疾患、統合失調症、うつ病、薬物乱用・依存症など■■■■■■図表3 わが国の新しい臨床診断基準と診断の流れ(案)【ME/CFSの診断基準と手順】■■

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