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国疾病対策(CDC)基準、カナダ基準、MEのための国際的合意にもとづく診断基準(筋痛性脳脊髄炎の会が推奨)など、これまでいくつかの基準が用いられてきています。日本では、厚生労働省科学研究費補助金の研究事業として、ME/CFSの新しい診断基準が2017年に提案されており、プライマリー・ケア医(家庭医、総合診療医)が使いやすいように工夫されたものとなっています(5ページ、図表3)。実際、慢性的な疲労を訴えて来院した患者さんに対して、診断基準は以下のような流れの中で使われます。①まずは通常の問診や身体診察を実施。②明らかな誘因から疾患・病態が推定できれば、それらに適した検査を実施。③推定できる疾患・病態が明らかでない場合は、それらを明らかにするための病歴と身体診察を追加するとともに、図表3の別表1にあげた検査を実施。④その検査結果をふまえて、別表2に掲げた疾患・病態を鑑別する。この段階まではプライマリー・ケア医による対応が可能と思われる。⑤検査結果に異常があるかボーダーラインの場合には、内分泌科、神経内科、感染症科と適宜連携する。異常がない場合には、精神疾患の鑑別のために精神科医や心療内科医と連携。⑥優先されるべき精神疾患がないか、それのみでは説明できない疲労・倦怠感があり、疾患・病態が明らかでない場合は、ME/CFSの専門家に相談・紹介する。以上はME/CFSの臨床診断基準ですが、多様な病態が混在しないように絞り込むための研究用診断基準は、より厳格で複雑なものになっています。新型コロナウイルスに感染したあとの長引く症状に悩む人が依然として多く存在し、なかでも日常生活に支障をきたすほどの強い倦怠感が上位を占めているといわれます(図表4)。新型コロナ後遺症のうち、10%程度がME/CFSの診断基準を満たすことが海外で報告されています。新型コロナ患者の約10%が後遺症を患い、そのうち約10%がME/CFSになるとすると、国内で30万人以上がME/CFSになっていると推測されます。海外の研究者は新型コロナ後遺症の要因として、残存したウイルスの一部による慢性的な炎症、自分自身の細胞や組織を攻撃する自己免疫反応、体内の細菌環境の変化や潜在しているウイルスの活性化などの可能性を指摘しています。ME/CFSについては、発症原因やメカニズムの解明の研究、治療法開発の研究が精力的に進められています。現在、行われている治療法については、次ページの「Q&A」を参照してください。新型コロナの後遺症に苦しむ患者さんの約1割がME/CFS62024.02 – LABO ■ 新型コロナウイルスに感染したあとに、倦怠感や疲労感、嗅覚障害、呼吸困難や息切れ、味覚障害などの後遺症に悩む人が多くいます。こうしたコロナ後遺症のうち、10%程度がME/CFSの診断基準を満たすことが海外で報告されました。 国内では、患者団体のNPO法人「筋痛性脳脊髄炎の会」が2020年5~8月に新型コロナの感染疑いのある人を対象に調査し、326人の回答者のうち、ME/CFS様の症状のある人は全体の27.9%。その後の専門医による診察の結果、5人がME/CFSの確定診断を受け、日本でも新型コロナ感染症のあとにME/CFSに移行する可能性が明らかになりました。 同会は、さらに2021年の5~6月にもアンケートを行い、コロナ感染後にME/CFS様の症状が続いている141人から回答を得ました。以下のグラフでもわかるように、患者さんの置かれた状況はきわめて深刻です。患者さんの置かれた深刻な状況0  20  40  60  80(%)仕事や学校に戻れない身の回りのことができない寝たきりに近い基本動作(飲み込む、歩くなど)を学習する必要があるME/CFSの患者会の活動 NPO法人 筋痛性脳脊髄炎の会(ME/CFSの会)は、2010年、「慢性疲労症候群をともに考える会」として出発した患者会です。詳しい病態がいまだ不明で、指定難病にも障害者総合支援法の対象にもなっておらず、一般の検査では異常が見つからないために無理解と偏見に苦しんでいる患者さんたちが安心して治療を受けられ、希望をもって生きられる環境をつくるために活動を続けています。★NPO法人 筋痛性脳脊髄炎の会ホームページhttps://mecfsj.wordpress.com図表4 新型コロナ後遺症とME/CFS

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