Labo_No.557
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杉井智子(63歳/茨城県)令和6年度第25回一般公募エッセイ入賞作品紹介「検査がくれたもの」努力賞検査用紙は娘へのご褒美シート「手と尿道の清潔、そして時間を守って導尿することが膀胱や腎臓を守ることになるので、がんばってくださいね」泌尿器科の医師から毎月の受診のときにそう言われた。しかし、言葉にすると簡単だが、実行するのはとても難しいことだった。私の長女は「二分脊椎」という先天性の病気のために、下半身の感覚に麻痺があり、尿意を感じられない。小さいときから「導尿」という、尿道にカテーテルを入れて、時間を決めて尿を出すことをしていた。赤ちゃんの頃は母親の私がしていたが、5歳になって幼稚園に入ってから、自分でしてみたいというようになった。人形で消毒やカテーテルの挿入を遊びながら覚え、鏡を見ながら自分の尿道口にのなさからくる蜂窩織炎や、水頭症からくる頭痛、気道軟化症からくる呼吸障害など、さまざまな病状を抱えている娘だったが、毎月の尿検査で「体の不調に気づいたら、すぐ検査をして対処すれば大丈夫」という自信ができ、他の症状に対しても、悪化する前に気づくことができるようになった。「3歳まで生きることを目標にしましょう」と医師から言われた娘は、今年35歳。自分で体調管理しながら、仕事や一人暮らしを楽しんでいる。幼い頃の娘へのご褒美だった検査結果が書かれた小さな紙は、今も毎月、娘の身体を守ってくれている。抗生剤を持って帰ってね。ちゃんと手を消毒するんだよ」と言われることが多かった。娘は、手を洗っていなかったことがばれてしまって、顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしていた。小学校1年の夏休みの前ぐらいから、「おしっこ、きれいだよ。上手に導尿できているね」と医師から言われることが多くなった。その医師の言葉は、障害があるためにすべての発達段階でゆっくりな娘にとって、大きな自信となった。検査によって、目に見えない体の不調を“数値”という形にして示してもらう。それは毎日何回も導尿をしていた娘にとって、「導尿、1人でよくがんばっているね!」というご褒美になった。排泄障害以外にも、皮膚の感覚カテーテルを入れる……という、大人でも難しいことができるようになった。の際の消毒が大切になってくる。しかし、まだ5歳の娘にとって、早くトイレを済ませて、みんなと一緒に遊びたいという気持ちもあり、外遊びをしたあと手を洗わずに導尿したり、遊びに夢中になってしまって1回パスしてしまったりすることがよくあった。身体は正直で、そのたびに尿路感染し、突然高熱を出したり、夜中にお腹が痛くなったりしていた。してもらう。尿検査は導尿をきちんとできているかどうかの通知票みたいで、娘も私も毎回ドキドキした。幼稚園の頃は、医師から「うーん、尿路感染しているね。尿道に異物を入れるので、挿入月に1回、泌尿器科で尿検査を■ LABO – 2025.06 11

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