Labo_No.559
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2025年に入ってから感染拡大している百日咳。現在の方法で記録を取り始めた2018年以降では最多で、5月までの累計患者数は、すでに2024年の年間累計患者数の4倍以上になっています。新型コロナウイルスの流行による感染対策の強化にともなって、2020年から2022年にかけては全世界で減少していましたが、感染対策が緩和されるとともに、RSウイルス感染症などの呼吸器感染症や麻しんといった飛沫感染する感染症と同様に増加しています。コロナ対策によって一時的に感染が抑えられたことで、免疫がついていない人が増えたことなどが、流行の一因だと考えられています。百日咳とは、百日咳菌の感染によって激しい咳発作が起きる感染症です。患者の咳やくしゃみなどのしぶきに含まれる細菌によって感染し(飛沫感染)、7~10日程度の潜伏期間を経て、発症します。症状の経過は3つの時期に分けられます。①カタル期(約2週間)風邪症状が出て、徐々に咳の回数が増えて激しくなっていきます。②痙けいい咳が期(カタル期のあとに約2~   からチアノーゼ(顔、唇、爪の色が3週間)短い咳が連続的に起こり、咳の最後に大きく息を吸い込むような、けいれんするような咳が出て、痰を出しておさまるという症状を繰り返します。夜間の発作が多く、年齢が低いほど症状は多様です。③回復期徐々に激しい発作が減り、2~3週間でなくなります。一般的には発症から2~3カ月で回復します。百日咳はどの年代でもかかりますが、小児が中心で、発症する年代によって症状が異なる傾向があります。大人の場合は普通の咳が長引く程度で、特徴的な症状がないことが多く、自然と回復することもあります。このため、百日咳という自覚がないまま、感染を広げてしまうことがあります。特に重症化しやすく問題となるのが、新生児や乳児期早期の発症です。特徴的な咳がなく、無呼吸発作紫に見えること)、けいれん、呼吸停止へと至ることがあります。合併症として肺炎や脳症を引き起こすこともあります。百日咳にかかると、月齢6カ月以内の場合、約12%が肺炎に、0・6%が亡くなるとされています。百日咳の予防には、ワクチンが有効です。日本では1950年から予防接種がスタートし、年間10万例以上あった報告数は激減しました。現在は百日咳のほか、ポリオ、破傷風、ヒトインフルエンザ菌感染症(Hib感染症)、ジフテリアを予防する「5種混合ワクチン」を定期接種します。生後2~7カ月の期間に初回接種し(20日以上の間隔をあけて3回接種)、さらに初回接種終了後、6カ月以上をあけて1回追加接種します。百日咳はワクチン未接種、または3回目の接種が終了していない6カ月未満の乳児で重症化しやすいため、予防接種の対象月齢になったら、なるべく早く接種することが大切です。ただし、予防接種による免疫効果は、徐々に低下していきます。最後にワクチンを打ってから、4~12年程度で効果の減弱がみられるとされています。表2のグラフからもわかるよう乳児期は重症化して死亡することもある累計患者数はすでに昨年度の4倍以上行は続いています。百日咳は感染力が強く、症状が出る前から周囲に感染を広げてしまうことが問題となっています。感染予防のために重要なのはワクチン接種です。現状と今後の対策を解説します。激しい咳が100日間続くといわれる百日咳。2025年に入ってから感染が拡大し、7月現在も流2025.08 – LABO ■12百日咳感染が過去最多に。新たな傾向と追加接種の大切さMedical Trendメディカル・トレンド

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