Labo_No.560_re
12/16

聴力は加齢によって低下していき、40歳を過ぎると高音域から聴力レベルが下がり、60歳以上の3人に1人、70歳以上の約半数の人が難聴に悩んでいるといわれています。難聴と同様に高齢者に多い病気として知られているのが、認知症です。近年は、難聴と認知症が大きな関わりを持つことが明らかになってきています。イギリスの権威ある医学誌『Lancet(ランセット)』では「認知症の発症リスクのうち、で予防可能」という論文が発表され、その危険因子のなかで最もリスクが高いとされたのが、中年期(45~65歳)の難聴です。難聴になるとなぜ認知症の発症リスクが高まるのか、明確にはなっていませんが、コミュニケーションや社会的交流の低下などが指摘されています。難聴になると人の声が聞きとりにくくなり、何度も聞き返しているうちに、人とのコミュニケーションを避ける傾向になります。同居する家族がいたとしても、難聴の人には大声で話しかける必要があり、次第に最小限のことしか話さない音ほど数値も大きくなります(表1参照)。声くらいまでは聞こえるというレベルの聴力です。60デシベルの聴力となると、ささやき声は聞こえず、洗濯機や掃除機の音であれば聞こえるというレベルの聴力になります。つまり、数値が大きいほど、難聴の程度も重くなります(表2参照)。「聴こえ8030運動」の目標のために推進しているのが、主に次の4つです。①耳鼻咽喉科外来における聴力健診 の普及②加齢性難聴の疾病としての認知 音響性聴器障害の予防④補聴器と人工聴覚器(人工内耳な ど)の適正普及くなって会話が減りやすくなります。さらに耳からの情報が減ることで、脳の機能が使われにくくなり、認知機能に影響を及ぼすともいわれています。また、コミュニケーションや社会的交流の低下によって社会から孤立し、抑うつ状態を引き起こすことも知られています。このようにさまざまな悪影響がある難聴ですが、徐々に進行していくため、自分が難聴になっていることに気づかないことが多く、自覚していても「年だから仕方ない」と放置する人が多いのが現状です。そこで日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学科が2024年9月から推進しているのが「聴こえ8030運動」で、80歳で30デシベル(dB)、または補聴器をした状態で30デシベルの聴力を保つことを啓発しています。日本人約1万人を対象とした調査では、80代でも約3割の人は30デシベルの聴力を保っているため、難聴対策によってこの割合をさらに高めていくことを目標としています。デシベル(dB)とは、どれくらいの大きさの音かを示す尺度で、大き聞こえる聴力を目指す③ ヘッドホン・イヤホン難聴などの 45%は生活習慣などを改善すること30デシベルの聴力とは、ささやき2025.09 – LABO ■1280歳でもささやき声が70歳以上の半数が難聴60歳以上の3人に1人アメリカ音声言語聴覚協会 「Loud Noise Dangers」より小さい20dB 木のそよぎ30dB ささやき声・図書館40dB 静かな部屋50dB 雨音60dB 日常会話70dB 掃除機100dB トラクター120dB 滑走路近くの飛行機140dB 銃声 大きいし近年は、難聴によって認知症やうつ病の発症リスクが高まることが知られるようになってきました。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は2024年9月から、80歳になっても30デシベルの聴力維持を目指す「聴こえ8030運動」を本格的にスタートさせています。同学会が推奨する「聴こえのセルフチェック」を紹介するとともに、若年層にも無縁ではない近年の難聴に関する現状について紹介します。加齢にともなって聴こえが悪くなっても、「年だから仕方がない」と放置しがちです。しか表1 デシベル(dB)の目安Medical Trendメディカル・トレンド65 歳になったら耳鼻咽喉科へ「聴こえ8030運動」本格始動

元のページ  ../index.html#12

このブックを見る