要介護高齢者になってしまうのです。――先日、81歳で趣味も多彩で元気な知人男性が、突然、ジムのプールで倒れ、心筋梗塞で亡くなりました。周囲は驚きましたが、「いい人生!」という声も多くありました。和田確かに今の時代は個人差があり、意5 ります。単に数値を低下させるという科学欲的な男性もたくさんいると思うし、そういう人を増やさなければいけません。その方の死は突然だったかもしれませんが、充実した人生を過ごされたと思います。最後まで自分らしくが人生の理想で、ただ長生きすればいいというわけではありませんから、僕もそういう歳のとり方をしたいです。老後は、その人の性格や生き方に左右されますね。――長年に渡り高齢者医療の専門医として活躍されていますが、今の老人医療の問題点はどんなところにありますか。和田まずは薬の多用を避けることでしょうか。アメリカは心筋梗塞が死亡率トップだから、総コレステロールの値は低めのほうがいい。でも日本はがんの死亡率がトップなので、総コレステロール値を低めに調整するというのは疑問です。高値のほうががんになりにくいという疫学データが明らかになっていますし、総コレステロール値が高めのほうが長生きしているデータもあ的エビデンスのない薬の使い方は、考え直すほうがいいと思います。血圧に関しても、イギリスの大規模調査で最高血圧160より低い人は薬を飲んでも飲まなくても、結果は変わらないということがわかりました。つまり、今、日本で一般的になっている最高血圧140で降圧剤を出すというのは、適切だとは思えません。高齢者を元気にするためには、多くの薬を出すのではなく、無用な投薬をやめること。そうすれば、医療費も格段に下がってくるのです。そのためには、細分化された現在の臓器別の診療から総合診療へ切り替えることだと思っています。総合診療医を増やすことで、結果的に薬の出しすぎなどの課題を改善できるはずです。それに加えて、僕は腹囲の基準値で決めるメタボ検診も廃止すべきだと思っています。実際に太めの人のほうが長生きしているのに、サイズだけでメタボかどうかを決めるなら、大谷翔平選手もメタボということになってしまいます(笑)。――確かに、多くの高齢者がかなりの量の薬を飲んでいます。飲まずに捨てられてしまう薬もかなりの量になっていると聞きます。和田検査データの改善のために、医者から言われた薬を後生大事に飲んでいると、本来の元気が奪われてしまうことが実際にあります。数値が正常な人が健康なのではなく、意欲を持って楽しく生きている人が健康だと、僕は思います。――健康診断の数値ばかりを気にするのではなく、多くのことに興味を持って好きなことをみつけて生きるほうが大切ということですね。和田 “お年寄りのくせに”ではなく、僕はむしろ日本のお年寄りに期待しているのです。例えば、高齢者が交通事故を起こすなら、事故を防げる車をつくればいいわけです。今は完全な自動運転までいかないまでも、アクセルとブレーキの誤作動防止など、ずいぶんよくなっています。高齢者の免許証返納についても、僕には一家言あります。そもそも暴走事故は認知機能低下で起きるのではなく、意識障害などの別次元で起きるわけで、返納は露骨な年齢差別だと思っています。年齢差別の原因の一つに核家族化もあって、現実の高齢者のことを若い人たちはあまり知りません。一緒に生活していたら、今の75歳はまだまだ元気で、免許証を取り上げるのは可哀そうと思うようになりますよ。警察庁の統計でも、実際に高齢者の事故は決して多くはありません。逆に、免許証を返納すると老化は進んで、要介護になる確率が2倍以上に増えるというデータもあります。今の返納政策だと、多くの高齢者がさらにヨボヨボになってしまいますから、元気で長生きするためにどうするべきかを、高齢者自身も危機感をもって、真剣に考えなければいけません。――それには、自分で情報を収集し、賢く選択することが大切ですね。■LABO – 2025.09臓器別診療から総合診療で薬の多用を削減『私は絶対許さない』(監督・製作総指揮)の撮影風景『受験のシンデレラ』(監督・脚本)でモナコ国際映画祭グランプリ受賞(2007年)『 私は絶 対 許さない』でニース国際 映 画 祭 脚 本賞受賞(2018 年)
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